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CSNETとアジアへの影響を振り返る

―CSNETによる米国・アジア間ネットワーク開通35年周年記念イベントー

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日時
2020/10/23 PM7:00~10:00(米国時間)
2020/10/24 AM8:00~11:00(日本・韓国時間)

イベント動画

CSNETが米国とアジアをインターネットでつないでから35年。この記念すべき架け橋の35周年を祝うべく、当時CSNETプロジェクトのリーダーであったデイビッド・ファーバー氏とローレンス・ランドウェバー氏を日本時間10月24日(米国時間10月23日)にオンラインシンポジウムへ招待いたしました。このイベントは慶應義塾大学サイバー文明研究センターWIDEプロジェクトの共同開催となっています。

CSNETは1981年に米国の学術、工業、政府の研究グループなど、全てのコンピューターを繋ぐべく、全米科学財団(N S F)により設立されました。その後、1984年にCSNETは米国防衛省との交渉を経て、米国外のネットワークがArpanetに接続を可能にすることを実現しました。間もなく日本と韓国の承認も下り、1985年、ファーバー氏とランドウェバー氏によって東京とソウルにもCSNETのソフトウエアが持ち込まれました。これは当時のインターネット発展の歴史においてとても重要な出来事でした。

今回のイベントには、CSNETとアジアでのネットワークの発展に関わったパイオニアたちを招待し、これまでの経緯を共有し合いました。今回のゲストスピーカーには、ヴィントン・サーフ氏、リチャーズ・アドリオン氏、ローラ・ブリーデン氏、村井純氏、徳田英幸氏、キルナム・チョン氏、オクワ・リー氏を招待いたしました。

(1行目左〜右:ブリーデン氏、ウォン・チェリー、ファーバー氏
2行目左〜右: 村井氏、アドリオン氏、チョン氏
3行目左〜右: 相磯氏、徳田氏、ランドウェバー氏
4行目左〜右: サーフ氏、趙ミンキョン、 リー氏) 

CSNETの役割:ヴィントン・サーフ氏より

カーフ氏はこれまでのネットワーク史上において重要な出来事を紹介してくれました。CSNETの発展は、NSFがインターネットに関心を持つきっかけとなり、またCSNETの成功は、NSFNETやNRENといった、その後のNSFによる活動の礎となったといっても過言ではありません。今回のシンポジウムを通して、こうした歴史的出来事に関わってきた多くの人々の努力に感謝を表明されました。

CSNETの世界への影響:デイビッド・ファーバー氏、ローレンス・ランドウェバー氏より

ファーバー氏とランドウェバー氏は1981年に始まったCSNETの歴史を共に歩んできたパートナーです。CSNETのプロジェクトはとても挑戦的なものでした。当時の世界では、ネットワークの重要性への支持を得るのは容易なことではありません。ただ幸運にも、N S Fの支援を受けることでこの挑戦を実現し、1980年代には米国のほとんどのコンピューター学術機関がCSNETに接続することが可能となりました。またこの評判はたちまち世界に広まり、各所から多くの依頼がきました。各国のパイオニアたちが国際的なネットワークの形成をを進める中、ファーバー氏とランドウェバー氏は日本と韓国にソフトウエアを持ち込み、1985年にCSNETの接続を可能としました。結果的に、CSNETはNFSのネットワークへの理解と支援を広げることに大きな役割を果たしました。その後米国学術機関とスーパーコンピューターセンターを繋ぐため、NSFNETが設立されました。

アジアへの影響を振り返る:日本の場合:徳田英幸氏、村井純氏より

徳田氏と村井氏は日本におけるCSNETとJUNETの発展の歴史を振り返りました。JUNETがカーネギーメロン大学と繋がった1985年の出来事は、歴史の中でも重要な年です。当時、開発チームは大きな三つの壁にぶつかりました。一つはソフトウエアへの直接的な接続の難しさ、二つ目は高価格の電話料金と厳しいキャリア規制、三つ目は大学での専門家が少なかったことです。日本では、ネットワークの重要性が広く認識されていなかったため、政府からの資金を得るのが困難でした。ただ幸運にも民間団体がプロジェクトへの投資を始めたため、東京でも国際的なパートナーシップが次々と創設され、政府も最終的にはネットワークの重要性を認めました。

当時、慶應義塾大学で徳田氏と村井氏の指導教員であり、日本でのCSNETプロジェクトのキーパーソンだった相磯氏は、CSNETの発展と成功を祝いつつ、今回のオンライン上での師弟との再会とそれを通じた多くの出会いに喜んでおられました。

アジアへの影響を振り返る:韓国の場合:キルナム・チョン氏とオークワ・リー氏より

チョン氏はCSNETの発展における米国の役割の重要性について話しました。CSNETは人同士のつながりや、情報共有、ネットワーク発展への参加などの点において、アジアでのインターネットエコシステムの発展を助けました。1980年代は多くの国際的・地域的パートナーシップが誕生し、今日までのアジアにおけるネットワークの普及を大きく支えました。

リー氏は教育面におけるネットワークの発展について話しました。1980年代、研究者たちは主に教育を目的としてコンピューターを開発し始めました。1990年代には多くのネットワークが普及を開始。中国、オーストラリア、日本、韓国でも教育面でのネットワークの試験的利用が始まりました。当時のネットワークはかなり速度が遅いものでしたが、画期的だったことには間違いありません。これにより政府からは支援を得られ、学術機関と研究者たちはインターネットの研究をより推し進めることを可能にしました。又、韓国では大学教育でのコンピューター利用の促進につながりました。

1980年代のNSFとCICへの見解:リチャーズ・アドリオン氏、ローラ・ブリーデン氏より

アドリオン氏はNSFにいた当時の経験について話しました。ジョン・パスタ氏、ケント・カーティス氏、エーリヒ・ブロッホ氏そしてゴードン・ベル氏はNSFでネットワーク発展に尽力したキーパーソンたちです。彼らは、当時まだコンピューターの分野が軽視され、研究資金が確保できなかった学術機関へのより大きな投資を促しました。これにより、CSNETやNSFNETやNRENへの投資が進み、商業的なインターネット発展の普及につながりました。

ブリーデン氏はCSNET発展におけるCICの関わりについて話しました。1980年後半にはネットワークの発展は国内的なものから世界的なものへと広がり、世界中でインターネットサイトが次々と誕生しました。当時は資源集約を目的としたプロジェクトでしたが、CICはこれを今後繁栄していく価値あるビジネスと判断しました。ただ、発展への道のりは平坦なものではありませんでした。インターネットの脆弱性、国内外の制度の違いなどといった問題が発展を妨げましたが、これらの問題を解決に努めたことが結果的に大きな進歩をもたしました。CICは若いコミュニティで、常に何か画期的な事をしていました。CICによる国際的なつながりに対する支援は、世界のインターネットの発展において重要なものでした。

アジア太平洋での今後の動き:村井純氏より

CSNETでのこれまでの経緯を振り返った後、村井氏はアジア太平洋でのネットワークの現状と今後の発展について話しました。近年、インターネットの動きは変化しており、過去5年間でインターネット利用者数は著しい増加を辿っています。しかし、そのことは進歩の終結を意味するわけではありません。接続性だけでなく、連続性、コミュニティ、調整、連携のための強化においてはまだ開発の余地が残っています。現在、イーカルチャー、医療、農業の分野での新たな研究案が世界の注目を集めています。また、既存のケーブルにおける潜在リスクを乗り越えるため、海底での光ファイバーケーブルネットワークを強化するプロジェクトも進んでいます。こうした動きは全て、世界中がインターネットで安心かつ安定した繋がりを持つための環境づくりを目的としています。

今回のイベントはCSNETの発展を再認識する素晴らしい機会となりました。私たちは人類の利益のために無料で安全な信頼できるネットワークを築き上げてくれた全ての人々に感謝したいと思います。