*Click here to view the English article
*イベントレポート前半はこちら。
セッション4:パネルディスカッション「医療と健康の未来に貢献するテクノロジー」
パネリスト:
株式会社メディカロイド 代表取締役社長 浅野薫氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門副研究部門長 鎮西清行氏
神戸大学未来医工学研究開発センター・大学院医学研究科医学部教授 村垣善浩氏
株式会社AIメディカルサービス代表取締役CEO 多田智裕氏
アイリス株式会社代表取締役 沖山翔氏
Ubie株式会社共同代表取締役 阿部吉倫氏
(フロア発言者)川崎重工業株式会社 代表取締役社長執行役員 橋本康彦氏
(フロア発言者)神戸大学国際がん医療研究センター 山口雷蔵氏
(フロア発言者)藤田医科大学総合消化器外科 主任教授 須田康一氏
(フロア発言者)慶應義塾大学病院 副院長 陣崎雅弘氏
モデレーター:村井純
(村井)まずは沖山さんにPMDAに申請した際のご苦労と、申請に要した紙の資料の枚数について改めてご感想を聞いてみたいです。
(沖山)承認申請書類では一部2000枚程度、省内で閲覧のために17部の搬入が必要でした。
(村井)これは普通のことなのですか?
(鎮西)この枚数になるとデジタルで渡されても不便であったり、付箋がつけられないとかメモが書き込めないなどの不都合があるのでしょう。
(村井)デジタル担当大臣の河野さんがここにいたら何か言いたいかもしれないですね。
・・・
(村井)浅野さんにお聞きします。医療DXにおいて抱えられている最大の課題とは何でしょうか。
(浅野)もっとも大事なのは、お医者様とどう付き合って、どう意見を聞き出し、実現するかという点にあります。メディカロイド社では5年かけて5回の試作を繰り返しました。そこから数百項目の改善点が出てきました。実用化には、本当のニーズがわからなければいいものができません。公共性を高め、自動化をするにも、医師とロボットの共存を考えていかなければなりません。開発の初期段階から、医師に本気になってもらって本当のニーズを聞き出すかが一番の課題です。
(村井)日本が作ったロボットはたくさんあります、鉄人28号、鉄腕アトム、ドラえもん、こういったロボットへの夢というのはあったのでしょうか。
(橋本)もちろん夢を持っています。医者の両親とハンディキャップのある兄がいる家庭に育ちました。学生時代には息子は体の向きすら変えられず、介護をする親は2時間以上寝たことない方々にも出会い、医療、介護の苦労を技術で支えるという夢に向かってずっと来ました。臨床の現場で医師に使って頂くロボットを開発するのは、技術者としても本当に大変ですが、それだけ人の命は重たいものであり、だからこそやりがいがあると感じます。夢に向かって技術者と医師がタッグを組んで技術と医療が融合するのは日本の宝だと思います、今後も飽くなき夢を追っていきたいです。
・・・
(村井)モビリティについて、村垣さんにお聞きしたいです。移動する手術室というのは、色んな汎用性があると思いますが、どのような課題があるのでしょうか。
(村垣)日本では難しい課題がいくつかあると思います。災害時利用はわかりやすいですが、平時利用で、例えば地方の道の駅で検診をするなどの所から段階的に普及して行かないといけないと思います。デジタル化により地方にほぼ問題なく住めるようになっても、唯一心配なのは医療ではないでしょうか。地方創生にも関わってくると思います。
(鎮西)2-3年前に、厚労省が数百の公立病院の経営がこのままでは持たないという試算を出して大騒ぎになりました。数年後、そこにあった病院が当たり前には存在しないかもしません。「病院に行く」のではなくて、「病院が来る」ことを今のうちから検討をしないといけないですね。
・・・
(村井)ロボット手術を広めていくにはトレーニングが欠かせず、プロクター制度という教育制度が必要ということでした。問題はそのスケールやサスティナビリティだと思います。これまで様々な医療プロジェクトを見てきて、補助金が終わると止まってしまうプロジェクトが多すぎて制度上の課題感を持っています。
(須田)プロクター制度自体が、ボランティアに近い印象があります。各関連学会から毎年新しいステートメントが出てきます。それを遵守していくにも、できる人が教えるしかありません。しかし、そこに対する予算はほぼありません。それぞれのステークホルダーが受益者になると思うので、受益者負担による新しいシステムを作っていかなければ成立しないと思います。
・・・
(村井)手術用ロボットから院内の案内ロボットまで、色んなロボティクスが今回は話題に出てきました。このロボットの病院への導入にはどの様な課題があったのでしょうか。
(陣崎)色んな企業から依頼がたくさんありますが、比較的負担が少なく維持費が回るものを導入しています。社会実装を意識して研究費がなくなっても持続できること、他の病院も実装できることを想定して導入を進めています。
・・・
(村井)他の病院にも横展開できるという視点は大切ですね。大学で試験的に上手くいったことを横展開していくというのは可能なのでしょうか。そのためには何が必要なのでしょうか。
(須田)若手の医師の代弁になるかもしれませんが、手技を初めて学んだ機器というのは将来的にも引きずる傾向があります。例えば、hinotoriで育ったロボット外科医はhinotoriを使い続けたいでしょうし、私の様にda Vinciで育つとどうしてもhinotoriと比較してしまう。大学では産官学連携の中で様々なメーカーと医療機器を改善する機会に恵まれます。その様な環境の横展開が非常に大切だと思います。
・・・
(村井)今のお話の中にはベンダーロックインの匂いが少々しますね。私はネットワークを専門にしていますが、ネットワーク機器は色んな会社が作っていましたがCISCOが独占し始め、CISCOじゃないと使いにくい人々が出てくる、そうするとCISCOのインターフェイスをそっくりに真似する中国系企業が出てきました。しかし、ある時からCISCOは国際標準にコミットする様になってインターオペラビリティが出てくるとマーケット全体が底上げされてネットワーク業界が発展しました。こういう流れは医療にもあるんでしょうか、例えば、SCOTとhinotoriの間で標準化できる部分があるのでしょうか。
(鎮西)DICOMでは共通部分を最低限決めて、それとは別にプロプライエタリな部分を各社が持っていいことになっています。ただし良い部分は真似されるので、数年後には標準に取り入れられることになります。医療だからといって標準化の流れがない訳ではありません。
(村垣)医療データの標準はそれぞれありますが、最終的には方言があって電子カルテにベンダーロックインがあるのは確かです。ここを岸田総理がなんとかするとおっしゃっていますが、データが閉じ込められているので、例えばセマンティックデータモデリングで、時間と空間だけタグ付けされたデータが浮いて使いやすい状態にするなどの方策があると思います。
(鎮西)医療はワークフローを壊すことに極めて保守的です。データフォーマットはまだしも、プロトコルはまさにワークフローです。無理くり政府が主導して電子カルテを統一しても大ブーイングが出てくることは必至です。インターオペラビリティーという観点からは、データフォーマットだけでなく、どうしてもプロトコルの話が出てきてしまいます。
(村垣)SCOTでは、データ構造とプロトコルを扱っており、外科系のたくさんの生体情報、連続データが出てくるので、標準化をどうするのかを話し合っています。
・・・
(村井)多田さんにお聞きしますが、日本に高品質の内視鏡の画像データが蓄積されていて世界に貢献できるということでしたが、なんらかの標準はあるのでしょうか、それとも分析の方法論やモデリングに共通の方法論があるのでしょうか。
(多田)内視鏡にはDICOMの様な規格はありません。静止画で集めていましたが、2018年以降、ハイビジョン動画のデータ収集に切り替えるなど、実際にはリアルタイム動画で診察するので、それに合う様にデータの収集方法を模索して来ました。
(村井)多田さんの所は内視鏡データ解析のパイオニアですが、データをどの様に蓄積して、タグ付けして保存しておくか、アーカイブの方法がすごく大事だと思います、内視鏡動画データの標準化について多田さんに何かお考えがあるのでしょうか。
(多田)標準化以前に収集や録画、アノテーション、サーバー、などを処理できる一連のツールが世の中にないのが現状です。私たちは自前でツールを開発しており、そのチャレンジがこれからどれだけ通用するか、という段階です。
(村井)さすがアントレプレナーでチャレンジングなことをやっていらっしゃいます。その様なお話がお聞きしたくて、ベンチャーの方々をお呼びしていました。
・・・
(村井)メディカロイドでは標準化についてどの様にお考えなのでしょうか。
(浅野)今の段階では、まず第一ステップとしてMINSをオープンプラットフォームにして多くの企業様にアプリケーションを作っていただける様に提供したいです。その後、相互運用性や国際規格などに進むのではないかと思いますが、まだその段階ではありません、今後主導して行きたいと思っています。
(須田)海外に製品を売り出すにはグローバルな標準化を目指さなければならないとは思いますが、国内には特に低侵襲手術分野に素晴らしい会社がいくつもありますし国内で標準化してから海外に持っていく手があると思います。外資系の開発部からは必要な意見だけ吸い取られてしまう印象を持った経験が何度かあります。
(村井)橋本さんが先ほど日本のメーカーは産業用ロボットの世界シェアを獲得しているとおっしゃっていましたが、ここは標準化と何か関連性があるのでしょうか。
(橋本)ORiNがありますが、変化が激しい業界で標準化していると作業の間に物事がどんどん進んでしまいますので、進化が止まってしまう可能性があるのが難しい所です。日本は世間を巻き込む様な開発が下手です、まずは社会課題として認識してもらうことで自然にその時々の標準化の需要を掴んでいけるのではないかと思い、まずは、データを先生方に可視化し、共有できる様に取り組んでいます。
・・・
(村井)データが流通してくるとAIの出番と思いますが、アクセスできる良いデータが増えるということはAIにとっての価値だと思いますが、沖山さんにとって今日の議論はどうですか?
(沖山)データが規格化され共有され流通することは、医師にとって圧倒的なベネフィットと思います。ボトルネックは課題感やニーズを持っている臨床医が教育の段階で武器を与えられていないことにあります。本日の様な話題は医学部の教育では十分に対応できずに、外の世界に預けてしまっている状態かと思います。
(村井)医学部の学生にデータサイエンスとかAIを教えるのは一般的になっているのでしょうか。
(村垣)はい、少しずつ広まっています。慶應大学の場合、AIコンソーシアムを作って学部を超えて教育する仕組みがありますし、医学部でもデータサイエンスの講座を希望者は学べます。医療情報とAIをつなぐ人を育成して行くのが課題と思います。
(山口)この分野はスピードが求められていて競争的で、大学でやってしまうと自己満足的なところでおわってしまう面があります。モノにするというところを考えるのであれば、企業と組むことが必要です。ベンダーロックが壊れるときは、急進的に技術が発展していく中で壊れると思います。この3年間で、コロナがあり、ウクライナがあり、急激に遠隔医療の需要が高まりました。この分野もこれまでと違った進み方をしている実感があります。
(村井)コンピュータ関係はベンダーの競争が激しかったですが、大学が呉越同舟で足場を作るアプローチがとてもうまくいった。医療にも官民それぞれの役割と、大学が果たせる、大学しか果たせない役割があると思います。
閉会挨拶
政策研究大学院大学名誉教授 ・日本医療政策機構 代表理事 黒川清氏
今日はとても楽しいお話が聞けました。しかし、すでにデジタルでグローバルに世界は繋がっています。皆様にはもっとこの素晴らしい考えをどうやって世界に共有できるのか、世界中にどう活かせるのかというパッションを持って欲しいです。
まず念頭に置いて欲しいのは、開国して150年程度しか経っていない日本が本当に民主主義を獲得できたかということです。これまでは政府主導で偶然に経済成長が上手くいきました。例えば、福沢諭吉先生は、これからの日本はどうすれば良いか自分で考え自分の足で海外で必要な情報を集め翻訳し啓蒙活動をしました。皆さんにも困ったことがあったら、霞ヶ関に行くのではなく、まず自分の頭で考えて自らグローバルな行動に出て欲しいのです。
最後に、この場で日本の医療の課題である認知症について皆さんと共有しておきたいです。まだユニバーサルな診断基準や治療もありませんが、どんどん高齢化が進み認知症の人口が増え続けます。この問題はデジタルが力になるはずです、そこで皆さんにも認知症の解決策をどこかで考えてみて欲しいです。
(文:佐野仁美 写真:有馬俊)