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主催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC
共催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC
メディカルインクルージョン WG
SFC研究所ヘルスケアデータ社会システムコンソーシアム
SFC研究所価値社会プラットフォームラボ
WIDEプロジェクト
<開催概要>
日時:2022年10月11日(月) 13:00~18:00 (開場12:30~)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館ホール
当日のプログラムについてはこちら。
↓当日のセミナー動画
オープニング
プロローグ「医療と健康のDXセミナー」背景のご紹介など
慶應義塾大学研究員、慶應義塾大学サイバー文明研究センターメンバー 佐野仁美
慶應義塾大学は福沢先生が西洋近代科学文明を初めて東洋に移植した起点です。また、共同センター長がインターネットの父と祖父と呼ばれているように、サイバー文明の前提技術であるインターネット発展の重要な拠点でもあります。土台となる文明を客観的に振り返り新しいグローバルな情報文明を同時に見つめることができる当センターは世界でも希少な場所です。
情報文明の基盤となる技術を組み合わせ、デジタル空間を分断して捉えず一つの世界の中で何ができるのかを考えることは、目の前の医療DXに示唆を与えます。特にコストと医療資源の偏在についてはステークホルダーの協力次第で地球規模での変革が期待できます。それぞれの分野が独立して医療DXを推進できる訳ではありません。本セミナーでは様々なテーマを共有し有意義な議論ができると考えています。
主催者挨拶
慶應義塾大学教授・サイバー文明研究センター共同センター長 村井純
私自身、コンピューターサイエンスバックグラウンドから、ネットワークを世界に形成していく中で、医療と健康にどう貢献できるのか当初より非常に関心が高く、様々な研究活動に取り組んで来ました。サイバー手術室SCOTの国際標準化の相談を受けたり、藤田学園と関わる中でhinotoriとも出会い、大変衝撃を受けました。
前回第一回でも、「健康と医療がDXを先導する」とお伝えしましたが、医療は誰にとっても大事のテーマ、そして国境を超えても大事なテーマです。そこにどの様に協力しあえるのか、日本の技術がこの分野でどれだけ貢献できるかについて期待があります。色々な力を合わせることで未来が切り開ける、本セミナーがその様な機会になれば幸いです。
慶應義塾よりご挨拶
慶應義塾常任理事 北川雄光
慶應大学病院はインフラ整備を行い、2018年からAIホスピタルのモデル病院として活動しております。100周年を迎える2020年以降、新型コロナウィルス感染拡大により、非接触型の診療、遠隔医療をはじめ、医療DXが極めて重要であり、実行に移さなければならないと痛感しました。
外科的手術でも遠隔指導、遠隔手術、がネットワークの発達で実現できる様になっており、今後の医師の偏在、人材不足に関しても大きく貢献するはずです。今後は、未来型予防医療に力を注いで行きます。病気になる前に、日常の生活の中での大量のデータをどう活かすかが重要です。このセミナーが大きなヒントを与えてくれると期待しております。
開会挨拶
独立行政法人国立病院機構東京医療センター名誉院長 松本純夫氏
2001年にはロボットシステム「ゼウス」で6000キロ以上離れた、大西洋を超えた遠隔手術の成功例があったり、2000年以降、九大と慶應でda Vinciの治験が始まるなど、いよいよ日本もロボットの時代になると期待していました。しかし、実際にはなかなか保険適用にならず、da Vinciの日本での販売価格は世界標準価格よりも上回っていたり、費用対効果が大きな議論になったり、という状況が長く続きました。
ロボット手術の術者の唾液中ステロイド分泌量を測定すると腹腔鏡手術よりも低値であり、ストレスが小さいため、外科医が直感的にロボット手術が好きになる、という実験結果があります。私もda Vinciを病院に導入してきた経験から、座ってできる、手術着を着なくてもいい等、コンフォタブルな面のあるロボット手術を経験した外科医がリアルに腹腔鏡手術には戻れないだろう、ということを容易に想像できます。本日の手術用ロボットの議論を楽しみにしております。
セッション1: 医療の未来を拓くテクノロジー
「外科のDXのためにロボット外科・ハイパー手術室に求められること」
国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門副研究部門長 鎮西清行氏
長年ロボットとサイバー手術室に関するプロジェクトに関わってきました。人間であるドクターが医療機器を含む情報システムとどのようにインタラクションすべきかを考え、ドクターを支える一連のデータ循環を設計することは一番大変な部分でした。一体どういうDXを目指すのか、ワークフローのどこを改革すれば業務効率化に繋がるのか医師と病院スタッフの主体的な参加と議論が不可欠です。しかし、医療分野では稼働中のワークフローを変更することに対して慎重な傾向があります。したがってまずは、医療従事者自身が手術中のログを分析しやすい様な、ログと動画の可視化・分析ツールを開発しています。
手術支援ロボット、サイバー手術室から得られるログは、解析と共有次第で様々な公益に活かせる可能性を秘めています。この分野での国際開発競争はすでに始まっています。ログの取り扱いについては、患者、開発企業、医療従事者、医療機関、様々なステークホルダーが複雑に関与していますが、その活用方法を開拓して行かなければなりません。
「川崎重工及びメディカロイドがDXを通して目指す未来の医療」
川崎重工業株式会社 代表取締役社長執行役員 橋本康彦氏
川崎重工は総合重工業メーカーですが、ロボットにも長い歴史を持っています。2013年には、医療用ロボットに特化した(株)メディカロイドを設立しました。私たち日本のロボットメーカーは、まずは現場に足を運び、徹底的に顧客の声を聞きます。例えば、自動車メーカーとの対話を重ね、私たちは自動車産業と共に成長して来ました。今では国内大手自動車メーカーの製造工場の約7割で使用されています。同様に、半導体製造装置向けのロボット開発も、顧客のニーズを細かく聞き出し対話を重ねる必要がありましたが、この分野のグローバルシェアは50%を超えています。
対話の姿勢は日本のロボットメーカーを世界的に発展させた大きな理由です。顧客とのディスカッションを通じて最高峰ものを作り上げていく、このプロセスで日本は世界のトップクラスに入ります。この様に産業用ロボットで培ってきたノウハウは医師のニーズを細かく反映する必要がある医療分野でも必ず活かされるはずです。
日本発の手術用ロボットであるhinotoriは、子供の夢をつなぐ漫画家で医師でもある日本を代表される手塚先生の作品、永遠の命をテーマにした物語「火の鳥」が由来です。医師に術式を変えてもらうのではなく、ロボットが医師の動きに合わせて人の腕の様なフレキシブルな動きを再現する遠隔手術を目指しています。
また、MINS(Medicaroid Intelligent Network System)では、手術プロセスを可視化し、ロボットが蓄積した大量のログを教育に活かす取り組みや、モニタリングなど安心サポートも実施しています。
世界の産業用ロボット市場の半数以上は、日本メーカーが占めています。一方で、医療用ロボットとなると圧倒的に米国製が独占していて輸入に頼っている現状です。日本人に似合った医療機器、日本のドクターの技能を伝承できる機器、さらにコストやサポート面においても、日本製の医療用ロボットは期待されるはずです。
「AI surgeryを実現するスマート治療室SCOT」
神戸大学未来医工学研究開発センター・大学院医学研究科医学部教授 村垣善浩氏
これまでアナログだった外科治療の精密誘導治療を進めており、外科医の新しい目、脳、そして場を進化させる、スマート治療室 SCOT(Smart Cyber Operating Theater)を開発しています。これまで各医師の経験知であったアナログ情報をデジタルな形式知に変換し、蓄積したデータをAIが学習することによりAI surgery、未来予測手術が可能になります。
手術室にバラバラに存在する何百もの医療機器をパッケージ化し、それらをネットワーク化することで各機器の時間が同期され、空間と時間がタグづけされることにより、手術室全体のデータが構造化されます。
しかし、各企業は自社の医療機器を他社製品と機能を同期させようとするモチベーションが高くありません。そこで、ORiN(Open Resource Interface for Network)という国内外の産業界で普及しているミドルウエアを利用して機器間を統合し、OpeLinkという世界標準を作ろうとしています。また、どこでも遠隔精密誘導治療が可能になる様、5G通信を利用した走る手術室、モバイルSCOTも開発しています。
セッション2:医療と健康へのベンチャーの貢献
「世界に挑戦する日本の内視鏡AI」
株式会社AIメディカルサービス代表取締役CEO 多田智裕氏
内視鏡検査は早期にがんを発見できる唯一の手段ですが、世界的には内視鏡医の質と数が不足しています。内視鏡機器は日本発祥の医療機器であり、日系メーカーが世界シェアの98%を独占しています。日本は内視鏡医が多く、機器も普及しており、AIの学習に必要な大量の良質なデータが集まっています。
がんの生存率の改善には早期発見が何よりも重要です。医師が見逃してしまいそうな早期のがんも、AIが一緒に探してくれます。また、医師の経験により診断精度にばらつきが出ますが、AIとドクターが協働することで、診断の精度を一定まで引き上げることができます。
私は内視鏡AIで世界の患者を救うべく起業しました。世界のがんの死亡者数が一番多いのが消化管のがんです。内視鏡AIが社会実装されれば、世界中の患者を救うことができます。今後は、クラウド上で全世界の内視鏡医が繋がる未来を作って行きたいと思います。
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」
Ubie株式会社共同代表取締役 阿部吉倫氏(代理 三浦氏)
人々を適切な医療に案内することをミッションとしており、一般生活者向けの症状検索エンジン「ユビー」では、利用者が月間700万人以上と急成長しています。患者さんの症状に応じて適切な地域の医療機関を探し、無料登録いただいた医療機関には、事前に回答情報を送ることもでき、多くの方々の早期受診に貢献しています。
医療機関向けの「ユビーAI問診」も1,100施設以上に導入されており、問診時間が1/3に短縮されるなど、医療現場の業務効率化に繋がっています。
今後も、患者、医師、地域のかかりつけ医、専門病院、それぞれが抱える課題を解消しつつ、医療をつなぐプラットフォームとなって行きたいと思います。
「スタートアップにおけるAI医療機器開発の現状」
アイリス株式会社代表取締役 沖山翔氏
医療機器開発はプロセスが長く複雑で、様々な知見が必要、さらに費用がかかります。ステークホルダーが多い医療において各プレーヤーが分断していることに医療DXの遅れの原因があるはずです。そこで私たちは、みんなで共創できる、開かれた医療を作ることを目標に、分野横断的なチーム作りを念頭に事業を開始しました。
スタートアップで乗り越えるには非常にハードルの高いものでしたが、ハードウェア開発、特定臨床研究によるデータ収集、AI開発、治験、薬事上の承認プロセスなど様々な苦労を乗り越えて、AI医療機器として初めての新医療機器カテゴリでの承認、そして新規保険適用の承認を受けることができました。当社の事例、そして成功から失敗まで含めた経験をシェアさせていただくことで、今後日本から更に多くのスタートアップ、そして事例が増えることの後押しとなれば幸いです。
セッション3:大学と教育における医療・健康とテクノロジーのこれから
「商用5G網を介したhinotoriTM遠隔ロボット手術支援システム〜現状と将来展望〜」
神戸大学国際がん医療研究センター 山口雷蔵氏
国産手術用ロボットhinotoriで、商用5G回線を通じて、遠隔からの手術支援により、遠隔から若い医師を指導する実証実験を進めています。通信技術とロボットの技術を組み合わせれば、遠隔医療を実現することができます。
日本国内とグローバルでは遠隔医療の需要が違います。国土が狭く医療制度が整っている日本では、遠隔ロボット手術支援で若手の外科医の指導がメインテーマです。一方で国際競争の方向性となるグローバルな課題は、医療が行き届かない地域にダイレクトに遠隔手術ができる技術です。
遠隔ロボット手術は、技術的にはほとんど可能になってきていますが、技術面よりも法制度など社会の制度設計の方が時間がかかることです。技術面では、接続性と遅延については今後も検討すべき懸念点です。通信が途切れた時にロボットが手術を完結できる方策として、JAXAの遠隔操作技術をヒントにしています。通信の更なる将来性として、全てを無線でつなぐ、低軌道衛星やHAPSなどの技術が期待できます。
「ロボット手術から見えてきた新しい手術教育指導環境構築の必要性ー遠隔手術ネットワークとWeb3への期待ー」
藤田医科大学総合消化器外科 主任教授 須田康一氏
ロボット手術の有用性についてのネガティブな報告は多いですが、ロボット手術によって初めて得られるようになった手術操作ログなどの新たな外科的医療情報、すなわちサージカルインテリジェンスを求めていくつもの企業が続々と新しい内視鏡手術支援ロボットを開発、上市しつつあります。
日本では、氷河期を乗り越えて、プロクター制度と共にロボット手術が普及、発展して来ました。胃がんに対するロボット手術に先進的に取り組んで来た施設からは、ロボットを使うことで術後の合併症を軽減できる可能性や、生存率(がんの治り具合)が改善される可能性が報告されています。
一方real worldでは、ロボット手術を安全に導入できてはいるものの、そのadvantageを十分に引き出せるところまでは到達していません。指導医が組織を超えて適切な手術のコンセプトとロボットを使いこなす技術を伝えて行くことで、ロボット手術の良さが遍く発揮され、患者さんのQOLや生存率改善といった高価なロボット手術に見合う効果の発現に繋がります。現場のニーズに応えて改良を繰り返すことができる日本製ロボットの開発、アニマルやカダバーを用いて手術手技研修を行えるトレーニング施設の開設、それらの施設へのアクセスを改善したり指導医が現場に赴かなくてもreal timeにロボット手術の指導を行うことを可能にする遠隔手術プラットフォームの開発など、手術手技トレーニング・手術指導環境の拡充が不可欠です。藤田医科大学では複数のサージカルトレーニングセンターを運用し、それらを活用してhinotori本体やhinotoriを核とした遠隔手術プラットフォームの産学連携開発を推進しています。
今後、質の高いロボット手術の均てん化を進める上で、Web3を用いて遠隔手術用ネットワークで繋がったロボットから得られる大量のsurgical intelligenceを効率良く活用する環境づくりが求められると考えています。
「医療へのIT/AIの実装~AIホスピタルのモデルを目指して~」
慶應義塾大学病院 副院長 陣崎雅弘氏
慶應病院全体で医療DXを推進するべく、裾野を広く各診療科にAI担当医をおき、細かくニーズを引き出しつつも意思決定の早い組織体を目指しました。
まずは、院内での単純な作業のデジタル化に取り組んでいます。大きくは、院内情報の可視化と、ロボットの活用によるサービスの向上を推進しています。
院内のデジタル化では、コマンドセンターでの病床利用状況の可視化や、院内の医療機器の稼働率の可視化など、業務の効率化に繋がっています。また、AI問診システムの導入や、患者スマホへのデジタル情報の提供も進んでいます。
ロボットの利活用では、院内を案内するロボットや、患者搬送用のAI自動車椅子なども導入しております。自動調剤ロボットの導入では、人間よりも正確に調剤業務が効率化できることが分かりました。
今後は、蓄積された各種データを、疾患の発病予測、予後予測など、予防医療に活かして行きたいと思います。
→イベントレポート後半はこちら。
(文:佐野仁美 写真:有馬俊)