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【イベントレポート】2022.7.4開催 医療と健康のDXセミナー

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主催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC
共催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC メディカルインクルージョン WG
SFC研究所ヘルスケアデータ社会システムコンソーシアム
SFC研究所価値社会プラットフォームラボ
WIDEプロジェクト

<開催概要>
日時:2022年7月4日(月) 13:00~18:10 (開場12:30~)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館6階G-lab

<プログラム>についてはこちら

↓セミナー動画前半:主催者挨拶からパネルディスカッション前まで

↓セミナー動画後半:パネルディスカッションから閉会の挨拶まで

 

主催者よりご挨拶
慶應義塾大学教授・サイバー文明研究センター共同センター長 村井純

ー医療と健康がDXを先導するー

デジタル技術を社会に貢献できるようなプラットフォームにしていくということを長年のライフワークとしてやってきました。技術を作っていくことは困難ではないが、技術を作って、社会の中で使ってもらう、これは本当に大変なことです。皆さんが使ってくれなくてはいけないし、いいと思ってくれなければいけない、理解してもらわなくてはいけない。

2020年になってコロナの危機、そしてウクライナの危機があり、世界中の全ての人にとってデジタルテクノロジーが、どう役に立つのか、なぜ役に立たないのかを考える時、全ての人がデジタル技術の存在を理解すべき時が来た。全ての人がインターネットを使える時にどの様な世界ができるのだろうかと長く議論してきて、いまや、世界はすでにインターネットで繋がっていて、デジタル技術はもう皆が使っている。私たちは、もはや言い訳できない。

社会全体のDXの中でも、医療と健康を集中領域としてDXを先導するというコンテクストを形成したい。そして本日は、日本を代表して新しい医療を日本から世界へと羽ばたいて行くべく、このコンテクストを担える方に集まって頂いた。

慶應義塾が場となって、この文脈の議論を支えて来て頂いた各グループが本日は集まっていただいた。本セミナーは、それらを統合して皆さんの知見をネットワーク化することが目的だ。ここから更なるネットワークが形成されることを願っている。

 

慶應義塾よりご挨拶
慶應義塾常任理事(研究担当)天谷雅行氏

ー医療のDXは簡単なことではないー

医療のDXとは、決して簡単なことではありません。

前職が医学部長であり、慶應病院が電子カルテを導入した際に現場にいました。当初、医療情報の元であるカルテは、各科カルテだった。院内の1患者多カルテを、1患者1カルテにすることからが電子カルテまでの長い道のりの始まりでした。2012年に慶應大学病院で各診療科をまたいでカルテを共有できることになったことは、大変な進歩でした。

AIホスピタルプロジェクトなど、現在でも情報と情報をつなぐことが求められ続けています。さらには、医療の情報が日常生活における様々なヘルスの領域に繋がり、新しい価値を産み出す力になろうとしています。

情報をつなぐ裏側には様々な課題と問題があり、今日はその課題に向き合える多様なバックグラウンドがある人が集まっています。この医療DXの領域を皆様に先導して頂きたいと思います。

 

「開催にあたって 医療のDX」
独立行政法人国立病院機構東京医療センター名誉院長 松本純夫氏

ーそれでもオンライン診療は普及していくー

2015年からネットワークに接続した患者の自宅のTVを仲介してオンライン診療を行うなどの、Hospital in the Home を提案していました。この頃は日本で若年層を中心に、スマホ、SNSが普及しており、ネットでできることは医療でも出来るはず、出来ない不思議が国民の声、ということを痛感しました。近年では、高齢者にもスマホ普及が急速に進んでおり、TV端末に加えスマートフォンを利用するオンライン診療を考えるのが普通の流れです。

そんな最中、COVID-19の大流行があり、管政権ではオンライン診療が解禁の方針となりました。それでも、自宅待機で急性憎悪で、死亡する患者がありました。また、かかりつけ医の議論がなかなか進まない現実もあり続けます。

デジタル技術の再興を医療へと展開できるのでしょうか。デジタルの力で医療格差解消へ、医師の働き方を改革、遠隔診断、各人の医療データ標準化PHR、タスクシフト、かかりつけ医の育成、医療ツーリズムの構築、国産ワクチンを始めとした新薬の開発など、様々な可能性はありつつも、現実の医療イノベーションはなかなか進んでいません。

顧問を務めている厚労省のデジタルヘルス改革工程表では、PHRに関する複数の工程を盛り込み、電子カルテもHL7 FHIRの規格を搭載した仕様書に変えていくことになっています。この工程通りに進んでいくか疑問ですが、それでもオンライン診療は普及していく可能性に満ちています。

本日は、Apple Watchなど、ウェアラブルデバイスの機能を用いて救急医療に繋がる仕組みから、特に消防庁は総務省管轄、病院は厚労省管轄などといった、医療分野における縦割り行政についても切り込む議論を期待しています。

 

「医療情報共有は何故進展しないのかー歴史に学び近未来を考えるー」
順天堂大学客員教授・内閣府 国家戦略特区WG委員 阿曽沼元博氏

ー医療情報の共有には強力な政策誘導が必要ー

長年、医療情報システムの導入に約50年という長きに渡り関わってきました。システムを提供する側と、現場で実装していく側の両方の苦労を経験し、特に施設間、地域間での情報共有が進んでいない点に関しては、責任の一端を感じています。

カルテは誰のモノかという議論がかつてありましたが、患者のモノでもある、という認識はこの10年くらいで普通の事になりましたが、他の人達や、公衆衛生の為という認識はまだまだ残念ながら非常に低く、医療情報が未だにある意味、医療諜報であるかの様な観念が存在しています。

日本では従来より標準化の議論があっても、社会実装に遅れがあり情報共有が一向に進まない現実があります。そこにはプライバシーの壁、組織の壁、人間関係の壁などが存在していると共に、電子カルテ導入の標準仕様は存在せず、現場の運用や希望任せの仕様書が流布され、そしてそれに基づいてシステムが導入され個別仕様が跋扈しているている現状が大きく影響しています。

日本の医療情報システムは構想策定や情報共有の議論は世界の先駆けでしたが、今や追いかけられて後を追っている状態です。長年をかけて修正はかけられ、進展はしていますが、残念ながらパッチワーク的改良に留まり、本質的な課題解決には至っていません。近年では、HL7 FHIRが医療情報共有化の救世主のように語られていますが、私は決してそういう風に思っていません。10年前にもSS-MIXさえあれば情報共有ができると考えられ、多くの議論と社会実装が繰り返されてきましたが、多くの課題が明らかになっただけでした。決して、情報共有のデータ交換規約としてHL7 FHIRを否定するものではありませんが、それらを基軸にしながらどうDXを進められるか、現実に即した具体的な議論が必要です。

医療の現場とベンダーが医療機関内、地域内での部分最適を追求して、多くの独自プロトコル仕様が乱立している現状、これは決してベンダーだけの問題だけでなく、政府、行政、医療現場の全体最適を目指した議論が必要です。

医療情報の共有や利活用を阻む様々な壁がありますが、それを打破するためには相当に強力な政策誘導が必要ではないでしょうか。エストニア等ではご承知の様に、医療サービス組織法などでは医療機関は行政に対して医療情報を提供することを法律で義務付けられ、各情報の種別ごとに標準的なプロトコルが示されています。我が国もデータ共有化基盤の構築のために、ある意味義務化が重要だと思います。

また、唯一無二の標準化仕様に決めつけるのではなく、医療現場の現状、企業状況、そして医療機関だけでなく、広く個人に関わる健康情報、行政的情報も含めたスムーズなデータ交換、共有が必要となる将来においては情報提供する側の状況に応じて、受け取る側双方が構造化可能なデータとする為に「Data Exchange」をする、という概念、観点へのマインドセットも重要です。また、行政での医療情報に関する委員会・検討会も各省縦割りで乱立しているの現状についても、委員会と実証実験の組み合わせ、省庁横断の一本化の議論が当然必須でしょう。

今回内閣府の特区制度の一類型として創設されたデジタル田園健康特区では、これまでの経験を生かして、データの共有と標準化など、様々な課題に広くトライしていき、実証実験も実施していきたいと考えています。

 

「医療情報デジタルサービスへの挑戦」
藤田医科大学病院 医療情報システム部長 小林敦行氏

ーその時、いちばん動ける藤田学園へー

藤田医科大学は2020年、「国難に際して国に貢献するのは大学の使命である」と、ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員、128名を受け入れました。今も、「その時、いちばん動ける藤田学園へ」というヴィジョンの下で、スマートホスピタル、医療DXを進めています。

国内最大の病床数があり、病院の医療情報は日本一です。医療情報DX戦略が必要不可欠であり、ガバナンス構築を始めとして、学園全体で幅広い改革を進めています。

スマートホスピタルでは、院外へのデータ閲覧・データ連携は必須であり、セキュリティの再検討が不可欠です。医療情報システムの基盤領域を一般サービス、外部システム、病院情報利用システム、病院業務システムに分類した、4 Areaモデルを作成し、各エリアごとにセキュリティ要件を定義して、院外⇄院内のネットワークを段階的にセキュリティの検証を進めています。

すでに、遠隔手術プロジェクト、ロボット手術は先駆けて実施しています。今後、遠隔手術や遠隔診断などが可能な範囲を広げるために、広帯域・低遅延・高信頼性のネットワークが必須であり、医療に特化した高度医療情報ネットワークを構想しています。

また、FHIRベースで標準化された検診システムを構築し、将来的なPHR基盤を確立してく構想もあります。救急医療領域の効率化、AI問診の導入についても医療IT系のベンチャー企業と協同して進めています。

引き続き、「その時、いちばん動ける藤田学園へ」というビジョンに向けてスマートホスピタルを推進していきます。

 

「医療DXビジネス実践 Trial & Error」
株式会社アルム代表取締役社長 坂野哲平氏

ーウィズコロナモデルに軌道修正するー

医療IT市場は急速に加速している新しい成長産業です。新型コロナが追い風となり世界中で規制緩和や産業振興が行われていますが、日本はまだ勝ち馬になれます。情報の連携は取れていなくとも、ライフステージを通した健康医療データが国内に溜まっています。これを戦後稀に見るビジネスチャンスと見ており、ウィズコロナモデルにビジネスを軌道修正をしています。

2014年から開発しているDtoD(医師間)遠隔診療アプリのJoinでは、スマートフォンでビデオ通話や、テキストチャット、電子カルテなどの情報にアクセスできる環境を提供しています。2016年、日本初の医療機器プログラムとして保険適用ソフトウェアとなりました。すでにグローバルに展開しており、どうプラットフォーマーとして完成させていくかトライしています。

元々は、各科を超えた医師同士の院内連携を取ることが目的でしたが、活用が広がり、地域医療情報連携、全国規模の連携、そして国際支援というテーマでも展開し、30カ国、1100施設に導入しています。コロナ禍では、感染症遠隔診療を支援するため、Joinで閲覧できるティーチングファイル集を無料で提供しています。

政府からの支援もあり、ウィズコロナでの医療輸出、国際支援を進めています。海外の大学と日本の大学をつなぎ、外科手術の遠隔教育をはじめとした医療DXの国際教育プログラムも作成しています。また、海外の医療系IoTやAIのベンチャー企業との連携も進んでいます。低コストの診断ツール、AIによるスクリーニング、遠隔診療を組み合わせることにより、様々なコストを抑えることができます。

ウィズコロナのPHRは、MySOSを活用した血圧や体温などの日々の体調記録、ワクチン履歴やPCR検査結果を含めたデータ解析により、今後のコロナ対策支援につなげることができます。また、日本入国時の本人確認・位置情報確認など、最新AIをフル活用した仕組みを開発しています。今後も感染症対策をはじめとする時代の流れに沿った事業を展開していきます。

 

「コロナ下でのオンライン診療の活用」
株式会社MICIN代表取締役CEO 原聖吾氏

ーオンラインだからこその医療の価値ー

「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を」というヴィジョンを掲げています。その下で、オンライン医療事業、デジタルセラピューリティクス事業、保険事業を進めています。ユニークなところでは、病気の人向けの保険を出しており、デジタルヘルスケアと相性が良い領域です。また、TVでもオンライン診療を受けられる仕組みを作り、スマートフォンを持たないご高齢の方向けなど、オンライン診療の裾野を広げています。

オンライン診療はこの数年の間に制度が大きく変わってきました。2015年に遠隔診療が実質解禁しても、コロナ以前はなかなか普及していませんでした。2020年以降、オンライン診療の要件がさらに緩和されました。そして今年、特例措置の一部が恒久化されました。コロナ以降、薬局専用サービスを合わせて導入数は、10,000件を超えます。

コロナ禍では様々な患者さんと非接触で診察したい等のニーズが出てきました。そこで、多数の医師と多数の患者がヴァーチャル待合室でマッチングするアプリcuron typeCを開発しました。自宅療養している患者さんに医療へのアクセスを提供出来ただけではなく、保健所の作業負担を減らす等、医療資源の効率的な活用にもつながりました。一対一の診療の枠を超え、オンラインだからこそ可能になった新しい価値を示せた例かと思います。

対面と比べると様々なハードルがありますが、むしろオンライン、デジタルだからこそ、対面より精度が高いデータセットを用いた付加価値の高い診療等が可能と捉えています。今後、オンライン診療は、医療へのアクセス、健康・医療情報のデータ化の入り口になっていきます。

 

「コロナ禍の対応を通じて感じた医療・ヘルスケアのDXについて」
株式会社ヘルスケアテクノロジーズ代表取締役社長兼CEO 大石怜史氏

ーデジタルで医療と日常をつなぐー

ヘルスケアテクノロジーズは、医療分野を変革するべき社会課題としてデジタルの力で解決していくために、ソフトバンクの子会社として設立した経緯があります。

より健やかに暮らせる世界を、次世代へ。誰もが意識せずに健康になれる、健康であり続けられる社会の実現に向けて、2020年にHelpoをリリースしました。24時間365日健康・医療相談を可能にしています。24時間可能にすることで、コロナ禍での自治体の医療の逼迫を解消するためにも貢献しています。一度感染した後の患者さんのフォローアップ体制も整えています。

患者さんが医療にかかる前後の日常的に触れるアプリケーションとなり、日常のデータがサマライズされ、効率的な医療への入り口となることを目指しています。デジタルと医療は連携されるべき重要なライフインフラです、長期的にプラットフォームを形成できる様に取り組んで行きます。

 

「デジタルヘルスの現状と課題」
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科  デジタル庁 デジタルヘルス統括 矢作尚久

ー社会インフラである医療を共創するー

日本の医療システムは素晴らしい、この社会インフラを後世に残したい、という思いがあります。デジタルを始めとした技術革新の臨床応用は、医療分野の高度化と効率化と共に、社会システムとしての医療を洗練させます。

医療DXは世界的潮流であり、デジタルヘルスアプリケーションの数は劇的に増加し、近年はアプリケーションの有効性研究も増えています。成熟度が高いアプリケーションも2017年以降増え始めており、それらは、患者の状態管理(PGD)と、医療のナビゲーションシステムの機能を備えている特徴があります。

一方、日本には医療の質分析に耐えうる構造化されたデータが少ない現実があります。しかし、自分のデータが誰かの役に立つならば寄付したいと思う患者は圧倒的に多いことを考慮すれば、個人の意思に基づいて構造化された医療・健康データが利活用される仕組みが必要ではないでしょうか。

医療は社会インフラです。共創するイノベーションを国・政府・現場が一体となって、世界を先導する技術、サービス制度を作っていく必要があります。機械が中心となってしまっている現状の医療情報の管理を、様々な立場と視点から考え抜き、人を中心としたシステムに作り変えるチーム作り、グランドデザインが必要です。

 

「救急医療DX最前線」
TXP Medical株式会社代表取締役 園生智弘氏

ー医療情報の分断を無くすー

救急医療DX最前線の課題として、医療情報の分断から起こる問題の解決を目指しています。未だ、病院内部のデータはバラバラで、救急隊/自治体のデータと各病院のデータは全く繋がっていません。これまで紙媒体で管理していた病院救急外来の業務作業のDXを会社設立当初から進めています。多くの大学病院から高い支持を受けており、救急におけるプラットフォーマーとしての立ち位置を確立していきます。

地域の救急搬送のDXも進めています。これまでデジタルが浸透しなかった領域の情報のバケツリレーを効率化することにより、緊急搬送困難を解決したい。まずはOCR、AIによる情報入力支援システムの開発により、手書きと同等の速度で救急隊が情報入力できることを支援しています。

医療DXの実現には、医療現場で使われるシステムであり続けることが重要です。積極的な業務コンサルにより多くの人が関わる現場を引っ張っていくことを通じてDXを推進しています。

 

パネルディスカッション

(村井)
どういう人材が医療DXを進めていけるでしょうか。大学の役割は人材の輩出だと思いますが、実は私は、医師である矢作先生を慶應の環境情報学部に来ていただく人事の責任者でした。インターディシプリナリーな領域では、医療人材が他分野と連携されることが重要だと思ったからです。坂野さんは、ビジョナリーなスコープを持って取り組まれてると思われますが、この人材の配置についてはどういう所が鍵だとお考えでしょうか。

(坂野)
医療DXの分野ではバックグラウンドがはっきりしている方が多いです。そもそも医師だとか、輝かしい経歴を持っておられますが、私は医療の経験はなく、ITのバックグラウンドで入って行きましたので、関係者の話を素直に聞ける部分がありました。地域医療情報連携、病院同士の連携では、自治体との連携の中で予算や各立ち位置を調整していきます。医師だけではなく、自治体、政府、学会、様々なステークホルダーが入って来ますが、協調的な仕組みを作るのは日本人の特性にも合っています。従って、昨今のヘルスケアが中核となるスマートシティでも、街づくり、地域全体をどうするのかという仕組みを検討するのは、日本から海外へと持ち込める良い市場になるはずです。

・・・・・

(村井)
日本の医療は素晴らしい、という意見が聞かれましたが、日本は世界に対してどういう位置付けで、どういう貢献をDXと共にできるのでしょうか。

(山本隆太郎/クオリーズ株式会社 代表取締役)
日本は高齢社会を経験している、健康分野ではリードでき、世界も注目している。自由を確保しながら、どう医療政策を進めていくのか。国が率先するのも一つの姿であるが、民意の高い日本人が知恵を絞って解を見つけていくことに世界は注目するはずです。

(大石)
ビジョンファンドが出資している日本の企業はほとんどありません。AI、DXをリードする企業がない、国全体が後押しして、大きくしていくことが必要ではないか。医療、健康増進に対する意識が高いのが日本ですので、そこで大きくなる企業を期待している。

(原)
オンライン診療が日本初だからグローバルで競争力、世界に貢献できるかというと違う観点があり、どちらかというと日本の医療に誇るべき1つは、一人一人の医療従事者の持っている知見、主義等を含めた、職人芸の様な所ではないか。これまで伝承されなかった部分ですので、デジタルセラピューティクスなど、デジタルの力を使って日本から世界広めていけるでしょう。

(坂野)
ルワンダには眼科医がいない、ケニアには循環器医が60人しかいない。基本的には教育と遠隔診療で国全体を作っていくしかない、と現地で話していた。日本はその文脈で本当に期待されている、ぜひ色んな連携をして遠隔医療教育を展開していきたい。

(小林)
遠隔手術のトレーニングを開発途上国や僻地にグローバルにつなぐことによって、ロボット手術ができるお医者さんを増やす環境を作っていきたい。

(阿曽沼)
フリーアクセス等の制度は世界に誇る日本の医療であると思います。しかし、それだからこそ世界に比して、経営主体が多かったり、中途半端な病院があり続けてしまい、症例が蓄積できなかったり、様々な問題が起こってしまう。医療を支えるノンメディカルスタッフが日本には少なく、医師に対する負担が大きすぎるのではないか。電子カルテのデータをもっと利用価値のあるものに昇華するには、この辺りも踏まえつつ大きな議論が必要でしょう。

(園生)
日本の救急医療はすごく優れているが、かなりの部分は個人の努力やカルチャーに支えられている。その面も含めて教育なども含めて海外に輸出できないかを考えているが、まだ答えはない。日本では、若手への真の意味での権限移譲を進めることが必要ではないか。デジタル技術による業務の変革のセンスは、若手には勝てないでしょう。

(矢作)
臨床医の暗黙知の技術化をベースに診療を支援する仕組みは必須です。そこで生み出される様々なデータは本当に必要なデータであるはずなので、それを国民皆保険という日本にしかできない全てのデータを患者を救うためだけに使う。現在の国民皆保険は長軸ではないため、次世代型の保険システムでは、先程言ったことをベースに確率論ではないものに作り上げれば、それはどの国も欲しいはずです。

 

閉会のご挨拶
東京大学・政策研究大学院大学名誉教授、東海大学特別栄誉教授、日本医療政策機構代表理事 黒川清氏

ー次の世代を外に出すー

今やデジタル社会となり、もっと海外からの目線を持って、一人一人に何ができるか考えなければなりません。

若い人たちが育ってくることが一番大事です。日本は最長寿社会を誇り、高齢の女性の人口が多くなっています。さらに、少子化社会でもあります。女性しか子供は産めないのに、女性が子供を2-3人産みたい社会なのか?このパネルにいる人たちは皆男ですよね。アメリカなど他では考えられないはずです。何言ってんのこのおじさんたち、という見られ方になってしまってもおかしくないと思います。

海外では、大学、大学院、ポスドクなどは必ずボスの元を離れるのが原則です。あの人はあの先生の弟子である、というリピュテーションが広まります。日本人は他に行かず、同じ場所に留まる傾向があるため、社会の中でのリピュテーションが広まりにくい。ここを変えなければならない。

役所に行っても変わらない。どうやって一歩進めるか。それは、次の世代を外に出していくことです。そうして社会からの信頼を得ていく。実体験がないと難しいことです、帰ってこなくてもいいよ、という心意気で送り出すことが大事です。グローバル時代では、若い世代が外に行って、客観的な目線を持って、日本のここを良くすることに貢献したい、と思える健全な愛国心を育成して欲しいです。

(文:佐野仁美 写真:有馬俊)