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【イベントレポート②】第3回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するデジタルデータ」

*イベントレポート前半はこちら

↓セミナー録画動画(後半)

 

パネルディスカッション
「 医療と健康に貢献するAIとデジタルデータ:現状、課題、 そして未来」
パネリスト:登壇者全員 モデレータ:村井純

 

 

村井) デジタル社会の発展は急速に進んでいて待ってくれない、というのはここにいる皆さんのコンセンサスだと思います。デジタル庁のコンセプトは「誰ひとり取り残されない」としましたが、日本の人口は1億人を超え、世界の人口は80億人を超える人々全員に関わるテーマである医療と健康のデジタル化には、一体何年かかるのか。どこかで皆が力を合わせられないか、このセミナーに期待していることです。

江崎) 利便性は全ての障壁を乗り越えます。制度から議論しては永遠に終わりはないでしょう。例えば、ドローンや電子マネーなど、初期の政策的な議論では無理だろうとなりましたが、実際にはその利便性により広まりました。

村井) インターネット発展でも同様の経験をしたので納得します。

 

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村井) 縦を横につなぐことはDXの課題としてよく出てきます。医療の世界でも診療科ごとの縦割りを感じられるなど、医療データの共有においても縦を横につなぐことが大事だと思いますが、その突破口についてはどうお考えですか。

末松) 横の繋がりが大事だとは言いつつも実際には、人のものは俺のもの、俺のものは俺のもの、と皆思っているものです。データのシェアを進めるにおいても、No share No badget というような強力なインセンティブは有効だと思います。新型コロナのデータベースGISAIDにおいても、各国のデータは何州という地域属性が入力されているのに対して、日本から入力されたデータだけは地域のタグ情報が全てJapan, Japanと国名になっていて地域が特定されず、結果として変異株の情報が出てきたのは日本以外の国々の地域からとなりました。日本国内の流行源と分かってしまうリスクを恐れたのかもしれないし、悪意はないかもしれないが、あの時世界中が共通のデータベース上で協力しあっていたが日本は大きく取り残された。人間の生死に関わることです。日本は大いに反省すべき点です。

 


村井) おっしゃる通りで、人間の生死に関わるこの分野はDXを先導すると考えています。誰もNOと言わない目的に対してもデータの共有を拒むのはリスクを恐れるからですよね。役人方面でよくある振る舞いですが、人間の生死に関わる医学界もリスクを避けてデータ共有をしないのでしょうか…。

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村井) データの質についても、測定方法や精度を揃えて評価するということがそもそもできていない問題についてはどうお考えでしょうか。

桜田) AIに任せてしまえば良いという視点ではどういうデータをどういう質で獲得するかは見えてきません。AIの原理を理解し、どういうデータがあればどんな臨床課題が解決できるのかという視点を大事にすれば、計算可能な形式に符号に置き換える際に、どの特徴量を選べば良いか絞れて、結果としてDXの時間短縮につながると思います。

村井) 世界と比較しても慶應の医学部にはデータサイエンティストが少なすぎるのではないでしょうか。

桜田) 確かに教員数は少ないですが、臨床課題をよく理解して実力のある学生は多いです。ポテンシャルは高いので、なんとか束ねられればと思います。

 

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村井) サージカルインテリジェンスについてお聞きします。手術から新たに生み出されたデータ、医師の匠によるインテリジェンスが表現されるサージカルインテリジェンスは誰のものになり、どういうポリシーで管理すれば良いのでしょうか。

須田) 大変難しいご質問です。サージカルインテリジェンスは、執刀医個人のもの、病院のもの、患者のもの、企業のもの、立場によって様々な意見があると思います。少なくとも企業が営利を目的として独占的に使用するのではなく、産官学民一体となって社会全体で公益的に利活用すべきだと考えます。一方で、企業なしではサージカルインテリジェンスを収集することが難しく、この領域の発展を促進するには、参画している企業が、時代と共に厳しくなるコンプライアンスを遵守しつつ、各ステークホルダーに何をどのようなかたちで還元するのかを決めていくことが必要です。

 

 

江崎) 医療情報が誰のものかということについて、個人情報保護法を作成するときに議論しましたが、誰のものでもありません。個人情報保護法では、情報は使われることによって意味があるので、情報は特定の帰属をせず人類のために使われるべきであり、個人の自己情報コントロール権を守るのではなく、情報が使われることによって被害を被る個人を保護しようという考え方です。

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村井) 研究開発と実装について、病院の中でデジタルテクノロジーがどういう風に広まるのでしょうか。

陣崎) ChatGPTは検証やエビデンスの議論を抜きに導入されたので、一気に世の中に広まりました。一方で、医療界は十分なエビデンスや有効性の検証なくしては導入することはできないので、医療界へITやAIのテクノロジーが普及するのには時間がかかる様に思います。また、医療界は、個別化医療という言葉あるように同じ疾患であっても個々に抱えている事情が異なり、モデルの単純化や平均化が難しく、患者ごとに個別の対応が必要であると思います。しかし、AIは、ビッグデータから平均的な対応を抽出してくる傾向があるので、個々の事情に向き合ったAIを作成していくことは必ずしも容易ではないように思います。どこまでは平均的なAIを適用できて、個別に向き合う部分をどのように補っていくのかを見分けていく必要があります。

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村井) 介護領域の連携において、どういう課題があるのでしょうか。

岩本) 一番困るのは、本人を代弁して医師看護師に伝えるということです。介護には介護学という専門分野がなく、医療や看護の専門知識を取り入れながら、連携に必要な業務のデジタル化、自動化ができる部分はしていくことが課題と思います。

 

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村井) 家庭で使われる医療機器が医療に貢献できるのか、そこに何か壁はあるのでしょうか。

鹿妻) 家庭向けとコンシューマー向けでは、基本的な精度等はあまり変わりないですが、対応回数が極端に違います。データは共通していますが、測る人が本人であるか看護師であるかの違いがあり、機械というより記録における教育なども必要です。

村井) 日本と海外における違いはありますか?日本の医療機器の広告規制の必要はあるんでしょうか。

鹿妻) アメリカを代表する様に、医療費が高くなると家庭内で対策することになります。海外には医療機器の広告規制は事実上なく販売できます。自己責任という考え方が根付いている海外に比べると、日本は変なものに触らせないことで安全を担保しようとする傾向があります。

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村井) 取り扱っているデータと量においても、かなり特別な位置にある企業と思いますが、これからどういう役割を担っていくのでしょうか。

浜田) 健常者のデータを多く保持しているため、健康な人がどう健康を維持するのかというヘルスケアに近い部分から、医療に近い領域にもデータを使ったアプローチの価値を広められると考えています。

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村井) ルナルナ、母子モをはじめとして個人が責任を持って自分ごととしてアプリを使うことでデータの活用が上手くいっている領域であると思いますが、ここには何か秘訣がありますか。

宮本) 常に利用者の目線に立って物事を考え続けています。女性目線、母親目線を追求して、利用者の利便性を追求することで、質の高いデータも集まり便益を返していけると信じています。

 

 

閉会挨拶
黒川清氏 (政策研究大学院大学名誉教授、日本医療政策機構 代表理事)

 

今日集まった人達それぞれがユニークなテーマでした。それぞれが違う話でしたが、同じ方向性に向かっている多彩な人たちをパネリストにお招きした村井先生の視野と人脈の広さを感じます。
日本は人材が固定化して横展開が難しく、役所的な発想で行けば、こういった場には権威のある人から選んで行くというのがよくあります。また、何か問題が起これば霞が関に行く企業も多いです。こういった状況は、日本が本当に民主主義を達成できていないことを表しているのではないでしょうか。
成長が鈍化した現在の日本を考慮して、政府に遠慮せずに民主主義のあり方を批判的に考えることは大事です。高等教育の目的には、そういうことを考えられる人を育てることも含まれると思いますが、日本は大学入試を目指して初等教育から猛烈に勉強した官僚が多いです。また、二世議員も多くいます。そういった日本社会でやや「メインストリーム」から外れて、本日のような楽しい話ができる人達を探してこのような場を作れることは、次世代の育成にも繋がる私達の責任です。

(文:佐野仁美 写真:山﨑真一)

参考資料

  • 第一回セミナーレポート

【イベントレポート】2022.7.4開催 医療と健康のDXセミナー | 慶應義塾大学サイバー文明研究センター

  • 第二回セミナーレポート

【イベントレポート前半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」

【イベントレポート後半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」