主催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC
共催:慶應義塾大学サイバー文明研究センターCCRC
メディカルインクルージョン WG
SFC研究所ヘルスケアデータ社会システムコンソーシアム
SFC研究所価値社会プラットフォームラボ
WIDEプロジェクト
<開催概要>
日時:2023年5月22日(月) 12:30~17:50 (開場12:00~)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館6F G-lab
当日のプログラムについてはこちら。
↓当日のセミナー録画動画
オープニング
慶應義塾からのご挨拶
天谷雅行 (慶應義塾研究担当理事)
先日コロナが5類に移行しコロナ時代は、ほぼ終了に向かっています。この3年間で感じていることは、デジタル化、そしてデータシェアリングの重要性です。かつてない速度で様々なことがトランスフォームされました。また、チャットGPTも短い期間で急速に発展しました。インターネットが90年代に出て来た際にも、ものすごい勢いで世界が変わりましたが、チャットGPTはインターネットの基盤の上で、それを上回る驚異的な速度で広まりました。医療界においても大きな変革が起こっています。これまでは医療は、ある意味で閉じた存在でした。患者は病気になったら病院に行き、病院の中で診断して、症状が改善されれば病院を出ていく。病院は病院の中の責任を担っていた。しかし、デジタル革命により病院の対応範囲はすでに病院の外にまで飛び出していて、人々の日常生活、リアルワールドの様々な状態のモニタリングにまで手が届こうとしています。ここで何よりも大事なのは標準化、ルールづくり、制度の整備です。
主催者挨拶
村井純 (慶應義塾大学教授、サイバー文明研究センター共同センター長)
インターネットはコロナの前からありましたが、DXがもたらすデジタル社会の恩恵を、すべての国民が享受できるようになる契機は、コロナ禍にあったと言っても過言ではありません。リモートワークが当たり前になり、スマホでサービスを受け、ウェアラブルデバイスで日々の健康状態を把握できるようになっています。
少し前までは、専門家しか知り得なかった専門性の高い知識を、インターネットを通じて、より広く一般の人々にまで共有しています。これからは、誰もがいつでも気になる健康と、そして専門家による医療、ここには連続的な連携がますます起こるのではないでしょうか。それにはまず、医療と健康の連携に関わる様々な専門家が協業していく機会を創出する必要があります。このきっかけ創りは大学の使命だと思います。そして、サイバー文明研究センターは、情報技術が与える社会全体への影響を研究するセンターです。このセミナーでは、先端医療の専門家、ヘルスケアサービスの専門家、テクノロジーの専門家らがネットワークを作り、この連携を支える機会に繋がればと思います。
イントロダクション
佐野仁美 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員)
従来の医療は、医師や医療機関を中心に各種医療資源が集まる集中的な構造がありました。サイバー文明の前提技術であり情報の民主化の技術であるインターネットは、デジタル情報を自由にやりとりし、医療と健康の分野でも個人を主体とした新しいユーザーモデルが誕生します。また、インターネットは、ネットワークのインター接続、すなわち、ネットワークとネットワークの間にまたがるネットワークとして、あらゆる物事の間をつなげる性質から、医療と健康の分野でも他の分野とつながり合わさりながら、新しい社会のインフラを形成する方向性が生まれます。このユーザーモデルの転換と新しい公共性への進化は、医療DXフィールドの拡大の方向性を示唆するでしょう。
これまでは、産業界の競争的な背景にインターネット技術が積極的に取り入れられ、グローバル化、デジタル社会が発展してきました。しかし、今後は、競争的な背景には反映されきれなかった、倫理性や公共性といった観点からも発展すると考えられます。その観点で、医療と健康のDXこそが、社会全体、世界全体のDXを推進するフラグシップにして行きたいということが、セミナー開催の背景でもあります。ここでは、これまでになかった問題に対して、新しい繋がりの中で仲間を見つけて、どの方向性に一緒に向かっていけるのか、新しい共創が課題になって来ています。
開会挨拶
松本純夫氏 (独立行政法人国立病院機構東京医療センター名誉院長 )
これまで長い議論を経て電子カルテの標準化について、直近では 3文書6情報を中心とした情報の流通が検討されています。医療の現場で生まれた3文書6情報を、本人の同意なしに電子カルテの情報交換サービスに流して良いという議論がありますが、これは国民から非難が出るのではないか、と憂いています。また、マイナンバーカードの利用の際、本人同意取得を手術とその他の情報との区分だけでよいのか? ゲノム情報や精神疾患などの繊細な情報をどう取り扱うべきか。3文書6情報以外にも、本人の周りにある様々な医療情報、PHR (Personal Healthcare Record)の取り扱いの議論も必要です。しかし、各種情報の担当は行政で分断されています。誰が統合するのでしょうか。さらに、患者の医療情報を扱う医師にも、緊急の場合、時間に余裕がある場合、問題がない場合、など様々なユースケースがあります。この様な複合的な視点から、健康寿命の延長、医療・介護の利便性の拡大、医療従事者の負担軽減につながる議論を期待しています。
基調講演
「健康・医療分野におけるデータ活用の在り方」
江崎禎英氏(社会政策課題研究所所長)
新型コロナウィルスから何を学ぶべきでしょうか。「正しく恐れる」ことの大切さです。「恐れない」ことは論外ですが、「闇雲に恐れる」ことも問題です。闇雲に恐れて家から出なくなると、フレイルになり免疫力が低下します。免疫力の低下はコロナ禍での高齢者の死者数の増加と密接に関わりがあります。手洗い、消毒、マスク、ワクチン摂取などといった基本的な感染症対策も重要ですが、自らの免疫力を高める行動が大切です。健康は「最終目的」ではなく、何かを実現するための「条件」であり、「結果」でもあります。
次世代の医療を考える視点として、まず人生100年時代の真の意味を考えること、つまり人間本来の状態を知る必要があります。人間の生物学的な寿命は120年と言われています。この120年の寿命を多くの人が全うする時代となっており、これを支えるのが医療です。
高齢者とは何歳からなのでしょうか。歳を取れば弱ると誰が決めたのでしょうか。高齢でも健康的な生活を送り、社会の中で役に立つ実感を持てれば、免疫力は高まり、パワフルに生きることができ、結果として健康寿命が伸びます。健康長寿社会では、生活環境の変化に伴って、加齢による健康状態は変化しますが、その変化を捉えない環境設定で学習したAIは、解析結果を誤り続けてしまう恐れがあります。
病気の性質も時代と共に変化しています。これまでの医療制度は感染症など外因性の疾患を中心に扱っていましたが、今後は、老化や生活習慣病など、個人によって治療方針が異なる内因性の疾患が中心となります。こうした疾患はDXにより患者自身の健康管理の枠組みを広げて行くことに適した領域です。
人口1億人を超える日本は、世界で一番多くかつ品質の高いデータを持っています。技術的な問題、プライバシーの問題など様々な問題がありますが、何を実現するための治療なのかというエンドポイントを見直し、蓄積されたデータを活用できた時に、日本の医療は世界をリードすることができるのです。
「データシェアリングによる医療の向上と課題:新型コロナからの教訓」
末松誠氏(実験動物中央研究所 所長、慶應義塾大学名誉教授)
広域連携・分散統合という観点から、データ連携の重要性について長年に渡り検討してきました。医療分野は内部でさらに分野が細分化し、特定の研究者、特定の専門家が特定の病気のデータを特定の病院に集めるといったケースが多くあります。ステークホルダー毎に異なる政治や権力図があるため、データの共有に様々な苦労があります。また、閉鎖的な研究者コミュニティにデータの囲い込みは付き物です。この様な状況では、グローバルな視点に立った医療課題の克服もできません。したがって、いくつかの分野の研究資金分配には、No share, No badget の条件を徹底する必要がありました。
医療ビッグデータの問題の構造にはまず、がんゲノム研究をはじめとしたデータを一箇所に集め一箇所で解析する参勤交代型(Rice tax with little return in Sho-gun era)が挙げられます。全国のがん拠点病院から、がんゲノムセンターに集められたデータは二度と戻って来ず、患者さんにとってのメリットがはっきりしないままデータが中央に集まるという構造があります。そして、NDB(National Database)は代表的なブラックホール型(Absorbing everything, No chance to utilize)として挙げられるでしょう。今後は、皆で管理しあう広域連携・分散連合型(Universal availability in Decentralized Network)の管理体制が必要です。
未診断疾患イニシアチブ IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)では、全国の希少な難病疾患を持つ小児の表現型、ゲノム情報、主治医の連絡先等の情報を入力します。商業利用に制限がありますが、国際的な連携が進んだことによりケースマッチングの幅が広がり、未診断疾患の確定診断も急速に進んでいます。国際的なデータ共有には、各国からデータベースに接続できるユニバーサルプラグといったソフトウェア開発のみならず、人と人との信頼関係が必要です。外交的な緊張状態から国内のゲノムデータを国外に出しづらかったリトアニア共和国が日本に未診断疾患のマッチングを頼ったことは地政学と医学の関係性の現れであり、相互の信頼関係からデータサイエンスが成立した例です。
感染症においては、ProMED-mailと呼ばれる、ボランティアのわずかな予算でぎりぎり維持されているデータベースに投げ込まれる情報が感染状況の把握の発端となります。また、GISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data)は鳥インフルエンザのデータベースでしたが新型コロナウィルスに役に立ち、世界共通のデータベースになりました。
感染症データなど公共性の高い医療情報を国際データベースでリアルタイムに共有するには、各国、各種の政治により阻害されない、科学のAutonomyの独立が極めて重要です。
「ヘルスケアにおける生成AIの実用化: 課題と可能性」
桜田一洋氏(慶應義塾大学医学部 石井・石橋記念講座 (拡張知能医学)教授)
これまであらゆる産業の自動化が進んできましたが、医療健康分野はアルゴリズムでの表現が難しく自動化が難しい領域です。従来の科学は、世界を機械に見立てて因果メカニズムを特定し物事を説明する傾向があり、因果メカニズムでの説明が難しい非平衡・非線形の開放系の世界は科学として扱いにくい領域でした。しかし、生成AIがこのギャップを埋める働きをすることにより、今後の科学、学問は更に発展します。
AIの医療への活用には、まず標準治療などの確実な医療の知識をAIで統合することが挙げられます。すでに存在する各種のAI診断を統合してコミュニケーションベースで使用できる汎用医療AIが今後求められます。一方、基礎医学分野では新しい医学的な発見のためにもAIを用います。それには変数が多い問題に対して、まずAI機械学習により要素を分解してから因果関係の特定を導くというアプローチが有効です。ただし、データがそもそも再現性の高いデータでなくては解析の効果はありません。
ChatGPTなど、基盤モデル、生成AIの広まりが目覚ましい中、AIモデルとデータの関係性に変化があります。これまではデータを持っていることにより寡占的な状態を生みました。しかし一旦良いモデルができれば、優秀なモデルでデータを解析したいと誰もが思いますし、モデルは使えば使うほど精度が高まるため、そのモデルを使わざるを得ません。企業による商用モデルはパラメータが公開されないため、アカデミアがオープンに触れることができるモデルの存在も必要です。この様に、データをどう統合するかではなく、どういう枠組みの中で新しいモデルを構築できるか、という視点に転換して行かなくてはなりません。
大学からの講演
「ロボット手術から見えてきた外科医療DXの方向性―Surgical intelligence x AIへの期待―」
須田康一氏 (藤田医科大学 総合消化器外科教授、藤田医科大学 高度情報医療外科学共同研究講座教授)
(参考情報)須田先生による過去のご講演は以下のリンク先からご覧下さい。
【イベントレポート前半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」
藤田医科大学では日本製手術用ロボットhinotoriの共同研究開発など、手術の現場で生まれる課題に対して産学が密に連携して取り組める環境が整っています。昨年公表された遠隔手術ガイドラインでは、遠隔手術指導(Telementoring)だけでなく、遠隔手術支援(Telesurgical support)、完全遠隔手術(Full telesurgery)が定義づけられました。今後のロボット手術の実用化には、現地医師と遠隔医師の操作権限交代による共同手術、つまり遠隔地の指導医が現地医師チームの手術を遠隔操作で直接支援できる遠隔手術支援の環境を整えていく必要があります。
まず解決すべき課題として、ネットワークの遅延(latency)とゆらぎ(fluctuation)があります。hinotoriによる縫合結紮の実験では、外科医の動作に影響が出て縫合結紮操作に要する時間が延長する閾値は100msecから125msecの間にあるという結果が出ました。外科医の肌感覚としては、遅延が50msecを超えると動作に不快さを感じ始めます。先月約300km離れた東京ー名古屋間で行ったヒトと解剖が類似した生体(ブタ)を用いた胃切除の完全遠隔手術実証実験では、31msecの遅延がありましたが問題なく手術を終えました。今後、1万km先でも遅延を50msecに留める通信技術を確立し、hinotori遠隔手術プラットフォームを世界に展開していきたいと考えています。
遠隔手術室に求められる課題としては、現地と遠隔地のコミュニケーションの充実があります。遠隔地でロボットを操作する術者の操縦席周囲の環境はどうあるべきで、どうやって現地手術室内の全景、音声、生体情報など、患者側のあらゆる情報を共有するのかを検討し、遠隔手術の安全性を高める必要があります。
すでに世界の大手企業も続々とロボット手術の業界に参画し、手術に関連するさまざまなデジタル情報、すなわちサージカルインテリジェンスを収集しています。手術支援ロボットから生成されるログ情報を中心としたサージカルインテリジェンスは、AIで解析することにより様々な商用化の可能性を秘めており、知財として捉えられるでしょう。
今後取り組むべき期待と課題として、遠隔手術プラットフォームとサージカルインテリジェンスを活用した手術教育指導環境の充実化、その環境を支える新たな経済的な仕組みとWeb3の親和性、国内に“高度医療情報ネットワーク”を張り巡らせてサージカルインテリジェンスを中心に様々な医療情報を集約しAIで解析する体制の構築などがあります。それらを通じて、日本ならではの医療DXが発信していけると期待しています。
「手術領域以外の医療DXの方向性-画像認識から自然言語処理へー」
陣崎雅弘氏 (慶應義塾大学病院副病院長、慶應義塾大学医学部放射線科学(診断)教授)
(参考情報)陣崎先生による過去のご講演は以下のリンク先からご覧下さい。
【イベントレポート前半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」
産業界でDXが盛んに進み、医療分野でもAI研究は進んでいますが、現場に実装して活用されいているAIは思いの外少ないです。AIの開発と実装は全く別の問題で、開発だけでも大変ですが、実装はこれとは別に取り組むべき課題であります。
インターネットが広く一般の人々に使われる技術に大衆化した様に、IT/AIもDXを通じてより多くの人々に使われる大衆的な技術になって行くはずです。もともとIT技術は、世間一般では高スキルを持った人に有効な技術であったと思います。このことから医療にIT/AIを応用するにあたっても高スキルの人への応用が念頭に置かれたように思います。我々は内閣府のAIホスピタルプロジェクトで5年間医療へのIT/AIの実装をテーマとして取り組んでまいりました。その結果わかったことは、医療界においては、IT/AIの低スキル業務への応用が有効であるということです。具体的には、デジタルサイネージや案内用ロボット、モノ搬送ロボット、人搬送ロボットなどです。
高スキル業務の代表として画像読影があり、ディープラーニングは画像認識が得意と言われたことから画像読影を担うのに有用ではないかと思われていました。しかし、AIはひとつの課題しか対応できないモノタスクであるのに対し、画像読影の業務は、1症例において対象臓器も対象疾患も複数あるマルチタスクの対応を要求される業務です。更に、想定外の病変はAIは検出できないので、結局読影業務の大きな部分にはAIはそれほど役立たず、一部の業務の効率化や画質改善など有効な点は限られます。ChatGPTの登場により、画像認識から自然言語処理に主流が移行しているように思いますが、AIの低スキル化や大衆化への潮流は、さらに加速すると思います。
これまでのAIホスピタルプロジェクトは、すでにあるAI技術の中で病院に実装できるものは何かという視点で推進してきましたが、今後の医療DXは、デジタル社会の中で次世代の病院がどうあるべきかをまず構想し、その構想にマッチングした研究開発をベンチャー企業等と共に進めるという方向で進めて行きたいと考えています。また、未病ー病院ー後病のペーシェントジャーニーを通じた一貫したデータを集積し、AIにより患者の状態予測の精度を高めることにも力を入れて行きます。
産業界からの講演
「データで描く、介護の未来〜SOMPOケアが推進する介護リアルデータプラットフォーム〜」
岩本隆博氏 (SOMPOケア株式会社 取締役執行役員CDO(最高デジタル責任者) 兼 egaku事業本部 本部長)
要介護者の増加と生産年齢人口の減少等に伴い、介護の担い手不足は今後も悪化が予想される、日本社会の深刻な課題の1つです。また、採用コストの高止まり等により、介護事業者の収支差率は年々低下し、介護業界を取り巻く環境は非常に厳しいと言えます。
国は、科学的介護推進体制加算/LIFE(Long-term care Information system For Evidence)加算によりデータを活用し科学的介護の促進を進めておりますが、経営環境が厳しい介護業界で、実際にどれだけの事業者がDXを進められるかが重要な課題となっています。
SOMPOケアでは、介護業界の持続可能性を高めるために、品質を伴った業務効率化の実現にチャレンジしています。睡眠センサー等のテクノロジーや記録システム導入などのICT化をはじめ、介護サービス全体のデータを統合・分析するソフトウェア「egaku」を開発しました。分散していた約500のデータを統合し、介護サービス全体の見える化を実現。実際の介護時間と介護度別の基準時間との乖離・原因を可視化してアラートを発することにより、ご利用者様ごとの最適なタイミングでサービスを実施することが可能となりました。今まで介護職の勘や経験に頼っていた、気づき・ノウハウの標準化です。
また、介護度別に健康度をスコアリングし状態の推移をビッグデータ化、ご利用者様の状態変化の可能性を示唆する「予測する介護モデル」を構築しました。「egaku」がアラートに加えて対応案を提示することで、早期に最適なサービスを実施しご利用者様のQOL向上を実現します。
このソフトウェア「egaku」を他の多くの事業者にも活用していただくことで、業界全体でデータ活用による介護の変革に挑戦していきたいと考えています。今後、介護に関わる各種ベンダーとデータ連携を進め、LIFEのみならずDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)を実践してまいります。
「自己測定とデータ活用、PHRから見た普及の課題」
鹿妻洋之氏 (オムロン ヘルスケア株式会社 経営統轄部 渉外担当部長)
予防医療分野でデータを使い世界を健康に導くこと、突発的な発作(イベント)をゼロにするゼロイベントの実現を目標に活動をしています。循環器分野での取り組みとして、革新的なデバイスの提供、遠隔診療サービス、家庭での計測データを活用し診断・治療を支えるAIの開発を重点的に推進しています。革新的なデバイスとしては、小型化を狙ったウェアラブル血圧計、血圧以外の指標活用として心電計付き上腕式血圧計、携帯型心電計などがあります。ヘルスケア機器と接続してデータを取り扱うOMRON connect(オムロンコネクト)、いわゆるPHRアプリも140万ダウンロードを超えました。
コロナで家庭内の健康意識や計測に対する意識が高まりました。一方、薬機法上では医療機器は広告に関する制限があるため、精度に劣るとされる非医療機器の方が認知が高く、世に出回るという状態があります。
PHRに関連した検討すべき領域は多岐に渡ります。個人情報保護法、薬機法のみならず医師法にまで注意することが必要です。
PHR普及のためには、データの精度・信頼性を高める観点からも、家庭での測定が期待できる医療機器に対しては広告規制の緩和が必要です。また、医療との連携を目指すのであれば医療側の負荷を評価する観点からも診療報酬の議論も必要となります。
この様に、ライフログデータの精度から医療機関との連携まで、PHRの全体像を俯瞰的に捉えた議論を進めていかなければなりません。
「PHR×AIで実現するヘルスケアの未来」
浜田貴之氏 (株式会社JMDC 執行役員)
弊社はヘルスビッグデータ事業を行っており、あらゆるステークホルダーに対して、ヘルスケアに関する多様なデータを提供しています。主要なデータとして、健保組合経由のレセプト及び検診データがあり、取得レセプトデータは8億900万件を超えるなど、日本最大規模の疫学データベースを保持しています。JMDCデータからは、複数の病院・薬局にまたがって患者の状況を深く把握することが可能です。
国内最大級120万ユーザーのPHRであるPep Upは日々の健康状態を把握する基本的なPHR機能に加えて、レセプトデータ・検診データと組み合わせた分析が可能なため、新型コロナワクチンの製造販売後調査にも貢献しています。ライフログと検診結果や疾病発生等のデータを組み合わせてはじめて、日々の行動要因と結果が結びつき、様々な予測AIの構築が可能となります。これらのデータから最適介入予測AIを構築しており、パーソナライズされた無駄のない勧奨を実現することで、日本の医療費の削減にも繋がると考えています。今後は、2000万ユーザーとつながる国民的PHRサービスを目指していきます。
「データ利活用やデジタルトランスフォーメーションによる課題解決」
宮本大樹氏 (株式会社エムティーアイ 常務執行役員ヘルスケア事業本部長)
「マイナス1歳から100歳までの健康管理をサポート」ということをコンセプトにヘルスケア事業を展開しています。
2000年から開始した女性の健康情報サービス、ルナルナは1900万ダウンロードを超えています。家庭内でできる妊活をサポートしており、ルナルナ内に溜まったビッグデータを活用して開発したルナルナ式アルゴリズムでは、従来式と比較して136%妊娠確率が向上しています(自社調べ)。2021年にはルナルナアプリ内で日本の年間出生数の1/3にあたる28万人の妊娠の報告を受けています。また、医療機関とも連携しPHRの活用事例の一つとも考えています。
電子母子手帳アプリ、母子モは540以上の自治体で導入されており、生まれてくる子供の 1/3の子育てをサポートしております。保護者の負担が大きい子供の予防接種のスケジュールを管理しやすいと好評を得ています。複雑な子育てにまつわる行政の申請や手続きのサポートなど、住民・行政・医療機関と連携した子育てDXにより、保護者の不安と負担を軽減できることを目指しています。
→イベントレポート後半はこちら。
(文:佐野仁美 写真:山﨑 真一)
参考資料
- 第一回セミナーレポート
【イベントレポート】2022.7.4開催 医療と健康のDXセミナー | 慶應義塾大学サイバー文明研究センター
- 第二回セミナーレポート
【イベントレポート前半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」
【イベントレポート後半】2022.10.11開催 第2回医療と健康のDXセミナー「医療と健康に貢献するテクノロジー」